【完】女優橘遥の憂鬱
 「俺はヌードモデルの彼女から色々学んだ。彼女とは最初からスキンなんだ。万が一のためにと女性用の避妊具も付けていた。病気などが移るのを極端に嫌っていたからだよ。でも俺は、安全日くらいは生で遣りたかった。だから……、アナタを犯していたんだ」

それが、あの日の真相だった。
それでも私は嬉しい。
過去をさらけ出して、何も隠さないで生きていけるようにしてくれたから。




 「俺があんなに悦んだのは、後にも先にもあの時だけだ。だから又貴女と遣りたい。どうか俺と結婚してください」


「お前は……」
父親は呆れたように言った。


「ヤバい……又だ」

私に耳打ちしながら彼が悶えていた。


「バカもん。早くトイレに行け!!」
父親が気付いて怒鳴り付けた。


「あっ、駄目だぁ……。親父、悪いけどパンツ貸してくれない。何時もの癖で想像してたら……、だから今グチャグチャだ」


「アンタは!!」
母親は真っ赤になって怒っていた。
でもその後で、大笑いに変わっていた。


「こりゃ駄目だ」
父親も大笑いしながら、彼にパンツを渡していた。


「橘遥さんって言いましたわね。こんなふしだらな息子ですが、末永くよろしくお願い致します」


「何だよ母さん。其処は普通、ふつつかだろうが」


「皆の前でこの人を犯したり、想像しただけで出しちゃうような子はふしだらでいいの。それすら勿体無い!!」
母親の言葉の前に、彼は沈没した。


彼は私の中でもなく想像だけで果てていたようだ。


「父さんが大きな声だすからだよ」


「バカもん。人のせいにするな。もう勝手にせい」


(何だか楽しい。何だか可笑しい……)


「あっ、笑った。母さん見てくれ。彼女が初めて笑ってくれた」


「あっ、アンタそのために……」

母親はそう言うと、私と彼を一緒に抱き締めた。


「母さん。彼女の笑顔素敵だろう。俺、彼女からそれを奪った監督が許せないんだ。でも一番許せないのは、八年間も彼女を救い出せずにいた俺なんだ」
彼はしみじみ言った。




 私達が夫婦になったらきっと、お互いを求め、お互いを慈しみあって歳を重ねて行くのだろう。

大好きな旦那様のために、いつまでも可愛い女性でいることが私の悦びになっていくのだろう。


私は笑いながら泣いていた。
初めての、幸せな涙を流しながら……




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