【完】女優橘遥の憂鬱
 「御無沙汰してます」

出てきた農場主に海翔君が挨拶する。


「あれっ、バイク何時持って来たの?」


「はい。何かと不便なんで、昨日二人で……」


「二人?」


「えっ、まあ……」

俺の発言に海翔君がぎこちなくなる。


だからてっきり、同乗の相手はみさとさんだと思ったんだ。


「野郎二人じゃ色気もないな」

農場主は何を勘違いしたのか、俺と海翔君が東京からバイクでやって来たと思ったようだ。


「やだよ。こんなヤツとじゃ……」


「俺だってやだよ」


「ってことは……彼女か?」


「ちゃうちゃう。仕事関係の人だよ」

海翔君は変に誤魔化していた。


(あれっ、みさとさん、昨日東京に来たか? あれっ、確か東京駅に居たのは海翔だけだったような気がする……って言うことは一体誰と来たんだ?)




 「それより、又豚を運んで良いかな?」


「そろそろお願いしようと思い、やって来ました」


「あっ、これも仕事だったんだ」


「そうだよ。まず豚で開墾だ」


「其処に花の種を蒔くのか」


「それは後でだな。今は近くにある花を植えよう」


「それが一番手っ取り早いか?」


「そうだよ。何しろ時間がないからな。どうだ俺達は同士ならないか?」


「同士?」


「そう。俺は此処を守るために生まれて来た。だから君にも仲間になってほしいんだ」


「もしかしたら、此処でずっと暮らせってこと?」


『社長。たった今、いいアイデアが浮かびました。彼処で腰を下ろして仕事がしたいのですが』
それは、社長に語った俺の夢だった……


「こいつの郷土愛は半端じゃないからな」

俺はこの人は海翔君の良き理解者だと思った。

だから、俺もこの土地で彼女と静かに暮らせて行けばいいと思ったんだ。




 「『このサプライズを思い付かせてくれたのはみさとだった』って海翔君は言ったんだ。あれは豚じゃなくて竹だったな?」


「俺は仕方なく、この人に竹の使い道を話したんだ。俺はみさとの発案で決まった卒業論文の中身の通りやってみたくなった。港から見える小高い丘に荒れ放題の土地がある。杭は打ってあるから誰かの持ち物なのだと思っていたけど、その場所が凄く気になっていたんだ」


(海から見える荒れ地か……)

俺は、この土地が物凄く気になっていた。




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