【完】女優橘遥の憂鬱
 「俺はその場所に目を着けた。其処の持ち主を調べて、無償で貸してもらえるように交渉しようとした。でも聞いて驚いたよ。其処は撤退した自動車工場がもて余している土地。つまり親父の勤めている会社の所用物だったのだから」


「あっそれでか?」


「うん。だから早速親父に連絡して、有効活用してはどうかと提案してみたんだ。親父はいつの間にか自動車工場の幹部になっていたんだ。だから、二つ返事でオーケーしてくれたっ訳だ」

二つ返事ってトコが気になる。
もしかしたら、見きり発車かな?
なんて思っていた。


「管理や維持費だけでも相当な金額がかかるらしいんだ。だから放ったらかしになっていた訳だ。俺も彼処を何とかしたかったんだよ。だから、乗った訳だ」




 「でも喜んでくれたよ。『俺達の故郷をよろしく頼む』って、受話器の向こうでそう言われた。俺達……って、親父とみさとの母親のことだと思った。『勿論だよ。俺に任せてくれ』思わずそう言ったんだ」


農場主は熱心に耳を傾けてくれたようだ。

だから、豚が借りられた訳だ。


「俺はそれに気を良くしていた。だから『でも……、俺には車が無い。あの土地に豚を運びたいのに、豚も車も無いんだ』って言ってた。本音は、車が借りたい。出来ることなら運転手付で……そう言いたかったんだよ」


「俺はそれを察して『何に使うかは判らないけど、豚も車も家にはあるよ。良かったら使ってくれないか?』って言ったんだ」


「でも……、俺の心を見透かしていると判っていたよ」


「何だか羨ましいな、こう言う結び付き……。きっと絆って言うんだね」

俺は解ったようなことを言っていた。




 「まず草の処分だ。それには又此処で豚を借てり放す」


「要するに、又車で豚を運び、其処へ放せして来いってことか?」

間髪入れずに言ったかと思うと農場主は豚舎へ向かった。


「実は、みさとが見て教えてくれたテレビ番組を見ていたらしいんだ。豚舎で餌を与えるのと違って代金がかからない。それだけでも農家の利益になるから結構乗り気だった」




 農場主早速、豚を数頭乗せた軽トラで其処に向かって出発した。


「さあ、俺達も出発しよう」

海翔君がバイクに跨がった。


麓から丘を目指す豚。
自然に耕した状態の土地が生まれて行く。


そんな風景を俺に見せるためなのか?
何故か港にいた。



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