【完】女優橘遥の憂鬱
 俺達はその後で、豚の放牧現場である愛の鐘設置場所へ急いだ。


バイクが現場に近付くにつれて、動悸が激しくなっていく。

それが何なのかは判らない。


でも、何かが俺を待っていると感じていた。




 その土地はとても広かった。
そして……

監督との面会時に感じた何かを思い出させた。


「ヴィアドロローサ」
俺は思わず言った。
それはまさに、あの時俺が想像していた景色そのものだった。




 (そうか……あの動悸はこれだったか? 俺は此処に来る前にこの風景と出会っていたんだ。それはきっと、俺の深部にコラボしていて、俺と彼女が求めていたものなんだ)


それは……、社長に語った俺の夢。
そのものだったのだ。




 社長は監督との出来事など気にするなと言った。
でもしない訳がない。


彼女が背負わされた背徳行為と言う十字架。

どんなに打ち消したくても、取り消したくても……俺がバラしたことにより社長も知ることとなった真実が彼女にはある。


彼女気が付かなければそれで済む問題ではないのだ。


俺はこれから先……
多分一生、この試練と共に生きて行くしかないんだろう。


それはキリストが十字架を背負って歩かされたと言う、ヴィア・ドロローサにも似てる。

そう思った。


エルサレムにある悲しみの道は、その先の丘まで続く。


あの時、社長に夢を語った。

その思い描いた風景そのものが目の前に広がっていたのだ。


あの時俺は、今度こそ彼女をしっかりと守りたいと思った。

そう考えた時、閃いた。

愛の鐘の向こうに無人のチャペルを作ろう。
と――。


出来ることなら二人でその近くに住み、一生を彼女に捧げたいと思ったんだ。


それが俺の出来る唯一の償いだと思った。

俺の夢は……
その時に変わったのだ。




 『社長。たった今、いいアイデアが浮かびました。彼処で腰を下ろして仕事がしたいのですが』
俺は思わず言っていた。


『つまり、娘と一緒に彼処で暮らしたいってことか?』


『はい。海翔君達と一緒に愛の鐘プロジェクトをやり遂げたいのです。あの土地が会社の資産なら、もっと活かせる方法も模索出来ると思います』


『何だか解らないけど、君はやってみたいのだろう?』


『はい。是非やらせてください』

だから俺は必死に頭を下げたんだ。




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