◇東雲庵◇2014〜2017◇
マンガと言論・2

【マンガと言論・2】

さて、これについてまとめて書く余裕が無くてズルズルと12月まで来てしまったのです。今年の汚れ、今年のうちに♪って事で(汚れ?)ザッと書いちゃいます。

パート2は小林よしのり氏のゴーマニズム宣言です。ご存知の方も多いと思います。【マンガと言論】と題して語るならば、本来まずはこれから取り上げなくてはならない程の作品です。

マンガ家が、マンガで世に物申す。
これは小林よしのりがフロンティアだと思います。古くは風刺画などに遡るのかもしれませんが、あんな風にちゃんとマンガ作品として描いたのはね。ゴーマニズム宣言は名だたる知識人を相手に絵と文字の両方で真っ向から勝負を仕掛けた。歯に絹を着せずものを言い続けた。それがとてもセンセーショナルだったことは間違いありません。小林さんのネームバリューと説得力のある漫画表現はかなりの破壊力でした。マンガだから、いろんな事象がデフォルメされて分かりやすい。イメージがバッチリと頭に焼きつくのです。子どもだった私には少々毒が強すぎましたけど(笑)

たかがマンガ。しかも『おぼっちゃまくん』みたいな下品な漫画を描いている作家が言うことなんて、マトモに取り上げるに値しない、と最初は完全に色物扱いされていたでしょう。そんなゴーマニズム宣言を一躍有名にしたのは、オウム真理教が一連の事件を起こし始めたあたり。坂本弁護士殺害事件で「オウムが怪しい」、と紙面で堂々と言い放った小林さんはオウムから命を狙われることになる。いわゆる、VXガスによる小林よしのり暗殺計画、です。
当時、わたしは中学生だったけれども、なんとなくオウム真理教がサブカル支持層の間で象徴的にもてはやされていた空気を覚えています。なんだかよく分からないけれども、浮世離れしたエキセントリックな感じが「オシャレ」で「カッコいい」みたいな。しかしそこでガンとしてNOを突きつけたのが小林さんであり、その小林さんを擁護せず押さえつけようとしたのは、他でもない、出版社側であった。
さて、結果はどうでしょう。程なくして地下鉄サリン事件が起こり、世間はオウムの実態を知ることになるのです。ここで、それ見たことか!と小林さんは自分の主張が正しかったことを紙面で繰り返しますが(この人、大人気ないなぁと思って見てました)でも、命を狙われてまで主張を曲げなかったのだからそのくらい言っても良いと思う。実際、死んでたかもしれないんだし。命を賭してモノを言う、この覚悟はカッコいい。

『ゴーマニズム宣言』をキッカケにして、世間に広く知られ前進した問題は他にもあります。薬害エイズや従軍慰安婦をめぐる報道(軍による強制連行があったかどうか、そこだけの議論に終始。今年になってようやく朝日が記事を撤回するに至る)そこに端を発した「新しい歴史教科書を作る会」など。小林さん、及びゴーマニズム宣言の影響力の大きさを改めて実感します。
彼の言葉は重い。そして筆の力は強い。特に、マンガである点が大きい。グレーを許さない。時に行き過ぎる。だから、人は恐れるのだと思います。右でも、左でもない、小林党。
わたしは彼の信者ではありませんが、彼の何が魅力かってやっぱり「わかりやすさ」に尽きます。非常に画力がある方なので、パッと見て、そこに何が書かれているのか、何を言わんとしているのががとてもよく分かる。これまでのストーリーとかね。同じく筆の力でこれに対抗するのはなかなか難しいと思う。だって画があるのとないのとでは、説得力が違うもの。だから、どうしても本人を侮辱するしかなくなるよね。たかがマンガ家のくせに、と。
分かりやすさはつまり物事をデフォルメしているからで、つい単純化されてしまう、という危険性を孕んでいることも忘れてはならないのですが。。。影響力デカイんだよねー。

言論の世界で、ペン一本で、マンガを武器に戦ってきた小林よしのり。その気概に触れるとやはりカッコいいなーと思う。人生をかけて丸裸で勝負してきた御仁を批判することなどわたしは出来ない。私だって、氏の主張は事によって賛否が分かれる。
でも、やはりカッコいい。間違ったことを言うかもしれない、という不安は誰しもあるもの。そこを乗り越えて、間違っていてもいい、今はこう思う!と堂々と主張されてきた道すじが、なんだかとても貴重で尊いもののように、私には思えるのです。


マンガにはマンガの、役目がある。

完。


< 18 / 81 >

この作品をシェア

pagetop