◇東雲庵◇2014〜2017◇
映画を観たのでつらつら。


【エニグマ〜天才数学者、アラン・チューリングの悲哀〜】


珍しいので、感じたこと考えたことをメモとして残しておく。

先日、久しぶりに映画を観た。
結婚して田舎住まいになってから映画を観る機会はめっきり減ってしまった。(以前は仕事の前後に気軽に立ち寄れた)が、たまたま旦那が出張で泊まりになったので、帰宅前の時間を贅沢に使ってやろうと急に思い立っての映画鑑賞だった。(安い贅沢である)

なにぶん急だったので、作品も前日の夜に調べて「明日近場で上映されるものの中で一番面白そうなものはどれだ?」と、消去法で選んだ。

それが『イミテーション・ゲーム〜エニグマと天才数学者の秘密〜』(だったかな…間違ってたらごめんなさい。タイトル長い上にセンスが…ま、いいや)。もう「エニグマ」って単語だけでダイソン並みの吸引力があるよね。

以下、ネタバレご注意を。

舞台は第二次大戦中のイギリス。
ナチスドイツの開発した世界最高の暗号「エニグマ」。当時、絶対に解読不可能と言われたこの暗号を、孤独な天才数学者アラン・チューリングが解読するまでの紆余曲折を描いた物語。
(ちなみに「紆余曲折」という言葉は最終的にコトを成し遂げられた場合にしか用いてはいけないそうである。マノさんありがとうございます。し、知らなかったー!)

戦争終結後もずっと国家機密として伏せられていたチューリングの功績(及び国家ぐるみの功罪)を、2009年に英国首相が明らかにし、彼に公式に謝罪したことでも話題になったから、記憶に新しい方もおられるのでは。(大体で書いてるので詳しくは検索を。)

まぁ結論から言うと
予想以上に良かったのです。

まず、主演のベネディクトカンバーバッチが偏屈な天才数学者を好演。チューリングという人物は、自分を天才と信じて疑わず(実際そうではあるんだけど)、能力の有無でしか他人の価値を測れない。コミュニケーション?人間関係?何それ美味しいの?状態。そのうえ、ゲイであるという…マイノリティーの塊のような人物。それをよくもここまでそれらしく演じられるものだな、と。役者さんってすごいな。

そのワンマンぶりが祟って周りから徹底的に嫌われ孤立するアランも、協力者を得て、次第に理解と協力を得られ、やっとエニグマを解読するに至る…!


、、、の、だが。

だが、なんですよ。


解読できたー!やったー!
で、終わらないのが面白かった。

エニグマ解読のためにアランが開発した機械がその後の「コンピューター」の基礎になるわけで、その装置が実際どのようなものであったのかを目にすることや、解読班内のヒューマンドラマもポイントではあるのだけど、映画は単純な成功物語で終わらない。むしろ、解読出来てからの方がアランにとって苦悩の連続であった。(もちろん映画に於いては、の話だけど。)

解読成功によってドイツ軍の攻撃作戦は全てが白日の下に晒される。
毎朝発表されるその日の計画。何時に、どこの島が、どの程度の戦力で攻撃されるのか。細かい部分まで確実にわかるようになる。
しかし入手出来たら出来たで、今度はその情報を「どう扱うのか」に問題が移る。

ピタリと待ち構えて撃墜すれば、一時的にそのポイントは守れる。が、それが続けばドイツ軍に暗号解読を悟られてしまう。丸裸にされているのに気付いていながら、晒し続けるバカはいない。解読された暗号は即座に廃止されてしまう。
なんとかして、戦争の終結までドイツ軍にエニグマを使ってもらわねばならない。情報を流させ続けなければならない。その為には、エニグマを解読できたことを相手に気取られてはならない。

と、いうことで
何が起きたかというと。

敵の攻撃計画を事前に入手していても、そのまま防衛に用いることができない。多くの場合は味方を見殺しにしなくてはならなくなる。

どこを(=誰を)生かし、また見捨てるのか。
自分は神ではないのに、情報を制御する事によって他人(しかし同胞)の生死を左右してしまう恐ろしさ。それに葛藤する解読班。

情報がどこから漏れるか分からないため、イギリス軍側ですら、エニグマ解読の事実はチューリングのチームとほんの一握りの軍上層部しか知らなかったそうだ。
果てしなく大きな功績を成したのに、そのあまりの大きさ・性質ゆえに、チューリングは表向き「給料泥棒」の汚名を着せられ続ける。しかし実際のところ、エニグマの解読(とその後の運用の仕方)によって戦争の終結は2年早まったとも言われている。代償の大きさは計り知れないが。

血縁者を見殺しにしてしまったことをきっかけに次第にチームはバラバラになり、アランは孤独を選び、進んで精神を蝕まれ、狂っていった。
正直、後半は辛い。重い。やりきれない。でも重いからこそ、心にいつまでも問いが残る。

『イミテーションゲーム』とタイトルが付いている通り、作中では登場人物たちが互いに「騙しあって」いる。「虚」ばかり。あちこちにスパイがいるし、こうなってくると一体、誰が誰の味方なのか混乱してくる。セリフのやり取りで裏をかかれて「え?え?」と惑わされた。字幕、読み甲斐があった。


後味が良いか悪いかと言われれば、多分悪い映画だったと思う。

でも、あれからずっと考えている。
戦争において上に立つ人たちは、裏の裏の裏の、そのまた裏を想像しなくてはならない。人の命を単なる数としてカウントしなくてはならない。最少の犠牲で、最大の成果を上げる為には。何も知らず犠牲になる庶民の方が精神的には楽なのかもしれない。わたしは絶対にこちら側だな、と。


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