◇東雲庵◇2014〜2017◇

【猫氏のふゆやすみ・後編】

年越しは別々でした。
たまにあるんです。曜日の並びによって、こういう年が。仕方ない、職種が全然違うんだもの。

年末、夫は1人で神戸へ帰ってゆきました。や、ドナドナな感じじゃないですよ。引き続き、彼のモードは花の子ルンルンです。
神戸滞在中は映画三昧、買い物三昧しておひとり様を満喫したそうです。甥っ子姪っ子と遊んだりね。初売りバーゲン行ったりね。

年が明けて3日に私が神戸へ出向いて、冬休み最終日の5日にふたりで名古屋に帰ってきた、わけ、なんですが。

私の母がね、年明け誕生日なんです。
ほんだもんで(名古屋弁。ですから、の意)
毎年、この時期に帰省の際は神戸か大阪でケーキを買って、それを持って実家に行って、みんなでお祝いをする、ってのが恒例になっておりまして。今年も例に漏れず、ケーキ持参で実家を訪ねました。絵に描いたような一家団欒です。さぁ、楽しく盛り上がりましょう!


異変は、そのとき起きました。

うちの両親にしてみたら、久しぶりの婿殿です。(娘は年末年始さんざん実家に滞在していた)神戸のご両親はお元気?とか、休みの間向こうでは何をしていたの?とか、夕飯の席で、せっせと夫に話題を振ります。両親、がんばる。

そーれーなーのに、それなのーに〜♪
(『技ありっ!』うしろ指さされ組)


夫、突然のトーンダウン。

「ええ、まぁ。」
「そうですね。」と
ほとんどの質問に対して一言で終了。

全然、会話が続きません。


「………!?(ちょ…っ!どうした!?)」


誤解のないように申し上げますが、普段は人当たりのいい人です。振られた話題にはイエス、ノーのあとに追加情報を入れて話を膨らませることくらい、します。

そーれーなーのに、それなのーに〜♪

取りつく島もない、とはこのこと。
なんで突然そんなに不機嫌になるんだ、にゃんこさんよぉ。。。

妻は訳がわかりません。


東雲母「猫くん、疲れてる?」
東雲父「そうだなぁ、荷物も多いし長旅だったもんなぁ。」

あかん、うちの両親が気を遣い始めてもーた。


「あ、あのね、神戸のご両親はお元気そうだったよ!お父さんお母さんによろしくねって!あちらからお土産も預かってきてるの。あとね、猫くんは冬休みの間にスターウォーズと杉原千畝と電気グルーヴのドキュメンタリー映画を観たりバーゲン行ったりしてたんだよ。ねっ!猫くん!」

わたくし、黙ってしまった夫に代わって必死で質問に答えます。

(なんだなんだ、どうしたーっ!?)

不機嫌のタネを探して右往左往する東雲。

…あのね、うちの両親は私じゃなくて、あなたと話をしたくて話題を振っておるのだよ。ここ、私の実家ですよ。私じゃなくてあなたが頑張るところですからね。ってか、やめてっ!なんか、わたしが焦ってフォローすればするほど、仲悪いのを隠そうとしてるみたいに見えるっ!

にゃんこさんのあまりの「シャッター閉めちゃった」具合にわたしの毛も逆立ちそうです。

しかし。
ここで噴火してはいけません。

待て待て、わたし。
怒ってはいけない。
よく観察するのだ。
敵の心の内に巣食う闇の正体を…

気分は陰陽師。
羽生くんよろしく手印結んじゃう勢いです。


「猫くん、ご機嫌悪いの?」

こっそり聞いてみます。

「ううん、そんなことないよ。」

じゃあどーして、喋らないんですかあなた。
昼間はウキウキで神戸の海岸通りるんたった歩いてお買い物してたじゃん。名古屋に着いた途端、一体どうしましたのんか?


、、、、まさか。

ふと、思い当たりました。


、、、、いや、でもまさかそんな。


「猫くんは明日から仕事なのよね。きょうは早く帰してあげないとね。」

母がそう言った途端。

「………はい……」

彼の身体はさらに一回り小さくなったようでした。


、、、、、、、マジか。


あーーーー、

はいはい!
なるほど!なるほどね!

妻は一瞬のうちに察しました。


「もしかして、明日から仕事なのが嫌で元気がないの?」

「………そんなことなぃょ…」


猫さんは小さな声で反論します。
しかし、むくれたような表情が証明しています。それが図星である、と。


そうか。
それだね。
そういうことね。

お休みがいよいよ終わっちゃうから、憂鬱なんだね。


って………子供かーーーーーーっ!!!!

( ;´Д`)

回し蹴りを食らわすところでした。
良かった、テコンドーとか習ってなくて。


私の絶対零度の視線を感じたのか、はたまたさすがにうちの両親に悪いと思ったのか、そのあとバースデーケーキを食べる段になったらちょっと喋ってましたが。

わかりやすい夫です。
素直すぎて、たまに困ります。
その分裏表がないので安心もできるのですが。

あ、すいません。
不満のように見せておいて、なんか仲良し自慢みたいになっちゃった。

ま、そんなこんなで。

悲しくなっちゃうくらい、長い冬休みを満喫した、にゃんこさんなのでした。

おしまい。



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