茉莉花の少女
 まだどこかに出かけてくれればいいと思っていた。

 夜になれば戻るしかないことは分かっていた。

 あのときから僕の家はあそこしかないと決まったのだから。

 せめて大学に入るまではあそこで暮らすしかない。

 彼女は目を細め、物憂げな瞳をしていた。

「わたしが傍にいる限りはいつでも聞いてあげられるから、いつでも相談してね」

 こんな世の中の幸せしか知らないような彼女に相談しても仕方ない。

 彼女は軽蔑したりはしないだろう。

 だが、深い同情を寄せるだろう。

 それが分かったから彼女には言えないと思ったのだ。



 家に帰ると彼女はどこにもいなかった。


 彼女がいないことにただ、胸を撫で下ろしていた。
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