茉莉花の少女
 そんな彼女の視線から逃れるために目をそらした。

 茉莉は笑顔を浮かべると僕の手を引っ張って行く。

 そして、鍵を開けると家の中まで導いた。

 昨日は玄関先にあった靴が一つもなかった。

 家に誰もいないのか、ただ片付けてきたのかもしれない。

 僕の手をつないでいた彼女の手が離れる。そして、僕を見上げていた。

「本当はどきどきしたでしょう?」

 まるで心の中を見透かしていたような言葉だった。

「そんなことありませんから」
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