茉莉花の少女
 彼女の足がとまったのは、金属のチェーンの巻かれた土地の前だった。

 その内部ではうっそうと植物が生い茂っている。その植物の高さは僕の腰ほどだ。

「もしかして、ここ?」

 彼女はうなずいていた。

「この一角に住んでいたの。今は、見事に何もないね。この前まで大きなお店があったらしいんだけど、潰れたみたい」

 彼女に何を問いかけたらいいのか分からなくなり、言葉を捜す。そして、無難な言葉を引っ張り出した。

「そのときのこと、覚えている?」

「ぼーっとかすかになら」

 その彼女の言葉を聞いて思い出したのは、親と旅行をしたときのことだった。

 無性に彼女にそんな経験はしてほしくないと思っていたのだ。

 そんな失望に似た気持ちをかき消すかのように彼女に対して問いかけた。

「優人さんたちと旅行に行ったことは?」
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