茉莉花の少女
「あまりないかな。お父さん忙しかったし。でも、お兄ちゃんが大学生のときに連れて行ってくれた」

 彼女の目がきらきらと輝きを帯びる。

「どこに?」

「遊園地とね、動物園」

 彼女にとってそれがうれしい記憶だったのだろう。

 とてもうれしそうに微笑んでいた。

 人は贅沢になるものだと思う。

 遊園地に行ったなんて些細な記憶は忘れてしまったり、くだらない記憶として処理されていくのがほとんどだろう。

 それでもそんな感じで優しく微笑んでいる彼女が不思議で、



 それでいて僕の心を惹きつけるものだったのは確実だった。
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