茉莉花の少女
 思わずそんな状況に言葉をもらす。

 そのとき、僕は見知らぬ洋風の家の中に茉莉花が凛とたたずんでいるのを見た。

 まだ、残っていたのだとそんな気持ちを抱く。

 彼女もどこかで同じ花を見ているのだろうか。

 笑っていてくれたらいい。

 そう思うと、不思議と心の中があたたかくなるのを感じていた。

 僕の足はついこの前、彼女の婚約を知った日に一緒に行った空き地に向かっていた。

 そこにはあの家と同じようにまだ茉莉花が優しくたたずんでいる。

 僕はその花を見て、表情をほころばせた。

 君がいたら僕の決定をどういうだろう。

 怒るだろうか。それとも受け入れてくれるだろうか。

 多分、君はこういうだろう。

「久司君が決めたことならそれが一番なんだよ」と。


 きっと。

 そのとき、傘を握る僕の手に雨がはねる。

 僕は手に冷たさを感じつつも、ただその茉莉花を眺めていた。
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