茉莉花の少女
 返事をするのもばからしい。そう思って目の前にあるコーヒーに手を伸ばしたときだった。

 僕の手を誰かが掴む。

 機嫌が悪いのに喧嘩を売っているのか。

 そう思って手の主を見る。

「ひどい。久司君。わたしに内緒でこんなところにいるなんて」

 少女のようなあどけなさを残した声が響く。

 手をつかんだのは大きな目をした少女だった。

 彼女の茶色の瞳が僕をまっすぐ見ていた。続いて、肩まである瞳と同じ色をした髪の毛が揺れる。

 知らない女。

「ていうか、誰? あんた」


「知らない振りまでして。信じられない。もう、来てよ」

 信じられないのはこっちだ。
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