茉莉花の少女
 この家の鍵を持っているのは僕と彼女だけだ。

 たまに「恋人」に渡すことはあるが、どちらにせよろくなことはない。

 さっきまで穏やかだった心の中に気持ちの悪い感情が蘇る。

 入りたくない。

 入るとしても遅い時間まで帰りたくない。

 そう思うと、道を引き返していた。

 そのとき思い出したのが彼女の言葉だった。

 彼女とはいつもあの交差点のところで別れる。

 だから、家も分からない。

 もしかしたら家に帰った後かもしれない。
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