愛を知らないあなたに
生贄の怒ったような声に、タマはへらっと笑って返す。



生贄はハァ・・・とため息をつき、何かを振り切るようにふるっと頭を振った。


そして、カラリと明るく笑った。


「ま、いーや。タマは色々テキトーなこと多いもん。

それより琥珀様、いい加減神社の中入りましょう?

あたし、お腹すきました!」


元気な声につられるようにして、俺は頷く。


生贄はそっと・・・少し躊躇いがちに俺の手を握り、さっきとは違う、嬉しそうな微笑を浮かべた。



「それと、琥珀様。

笑顔、すっごくすっごく嬉しかったです・・・。」


――ドクッ・・・・・・・

心臓が、音を立てて跳ねた。



嬉しそうに、柔らかく微笑む生贄から、一瞬、ほんの一瞬・・・目が、離せなかった。


するりと、生贄は手を離し、タタッと素早く神社の中へと走っていった。

タマはちらっと俺に意味ありげな視線を送った後、生贄を追っていった。



俺は、独り残されたこの場所で。

生贄に握られた手を、ぼぅっと見つめていた。





「・・・なぜ、だ・・・・・・。」



なぜ、生贄は鬼の俺の笑顔が嬉しいと笑う?

なぜ、生贄は俺が好きだと言う?


なぜ、俺はこんなにも・・・胸のうちを揺らしているのだ?




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