愛を知らないあなたに
「あのね、りょっちゃん。

床の下にきゅうりは埋まってないの・・・。」



げんなりしつつも言い聞かせるようにりょっちゃんに教える。


りょっちゃんはぷぅっと頬をふくらませて言った。



「そんなこと、やってみなきゃ分かんないじゃん・・・」


「やってみなくても分かる。

だいたいさ、きゅうりは夏野菜でしょ?

太陽の日差しを浴びて育つ植物であって、暗い床の下じゃ育たないよ。」


「う゛・・・・・・」




りょっちゃんは詰まりつつも、むぅっとふくれたままだ。


「でも、ボク、きゅうり食べたいよ・・・」



最後の抵抗とばかりに言うりょっちゃん。


りょっちゃんが、幼く見えて・・・なんだか、可愛いと思った。

可愛くて、愛しいと、思った。



あたしは微笑みながら、りょっちゃんの背中を・・・というか、甲羅を、さすった。




「大丈夫だよ。

夏なんてすぐに来る。あっという間だよ。

だから、きっとすぐにきゅうりを食べれるよ。」


りょっちゃんの澄んだ瞳を真っ直ぐに見つめて、あたしは言う。




「だから、ちょっとだけ我慢、しよう?

そうしたら、きゅうり食べれるよ、きっと。ね?」




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