愛を知らないあなたに
言い伝え通り。

今日あたしは、生贄として山奥へ行く。




『生贄を、凜とする。』


村長のあっさりした言葉。



誰も反対なんてしなかった。

誰もがそれを当然だと思っていた。



そう。


あたしを愛す人は。

あたしを思う人は。


もう、ここには誰一人としていない。


それはもの凄くあたしを鬱々とさせるし。

とても胸が苦しく、痛くなる。



けれど、あたしは大丈夫。

だって、あたしは確かに、愛された。


大好きな浅葱さんは、それを忘れるなと言った。

あたしも、忘れたくなんてない。




だから。


絶望する気もおきないし、前を向いて歩ける。




でも――



「生贄になっちゃって・・・

歩く道なんて、あの世しかないんじゃ・・・・・・。」





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