愛を知らないあなたに
そんなことを考えてしまう。


だって、もう、未来が見えない。




村を鬼から守る為に、鬼と契った“契約”。


鬼が山の麓(フモト)に降りてこない代わりに。

百年に一度、1人の若者を生贄として鬼に捧げる。




そして今宵。


あたしはその“生贄”として、山奥へと行くわけだけど――




鬼はおそらく、あたしという生贄を食べるんだと思う。


そうしたら、未来なんて見えないじゃないか。




「・・・・・・・・・ハァ・・・。

まぁ、しょうがない・・・って、言いたくないなぁ。」



そう1人ごちながらも、あたしは山へと足を踏み出した。


思うのは、顔も声も知らないお母さんとお父さんと、浅葱さんのこと。



鬼に食われれば・・・大切な人達のところへ行けるのだろうか。


それならそれでもいいか。



どちらにせよ、この村にあたしの居場所はない。


そんなことはとっくに認識済みだ。



この村に置いてきたものは、何も無い。


今はただ―――




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