バニラ
この香り。


いつからだっただろう。


千尋から香るバニラの香水。


甘く鼻をくすぐるこの香りに気付いたのは───カテキョを始めて2週間も過ぎた頃だったろうか。


そうだ、夏の暑い夜。


昼間は留守にしているオレの部屋に千尋を呼んで、勉強を始めようとエアコンのスイッチを入れた時だった。


長い髪を結った千尋の首筋から、室内の風とともに、甘くバニラが香った。


ほんのり、やわらかに香ったその千尋を、初めて“女”だと意識してしまうようになった。
< 4 / 10 >

この作品をシェア

pagetop