繋いだ手を

泣きたい気持ちを抱えながら階段を下りきると、何かの気配を感じた。こそこそと小声で話しているような、微かな音が聴こえる。



ほっとした。
だって、怖くない。
振り向いたりしないけど、確かに人が話しているのだとわかるから。



正面玄関とは反対側の廊下を曲がった先に、小さな休憩スペースがある。そこで男女が話しているのだ。



この研修をきっかけに、付き合い始める新入社員は多い。そのまま順調に、ゴールインすることも。



私の同期の中にも、研修で付き合い始めたカップルが何組もいる。
村主先輩も新人研修で出会った彼氏と遠距離恋愛中。そろそろ結婚を考えているらしい。



全国から集まった新入社員だから、配属先が離れてしまうと遠距離恋愛になる。



残念ながら私は新人研修中に、そんなロマンスはなかったけれど。



私は足音を立てないように、正面玄関の方へと急いだ。



生まれたばかりの愛を人知れず温める、二人の邪魔をしないように。

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