青春を取り戻せ!
「あの、お急ぎでいらっしゃらなかったら、……」

仰ぎ見た僕の目に、チャーミングなエクボが映った。

「……ぜひコーチ代として、冷たい物でもご馳走させてください」

僕の心臓は200ヤードぶっ飛んだ。


それから僕たちの交際ははじまった。

彼女は白木未美、24歳(僕の一つ下)、日本女子大を出て、兄の経営する配置薬の会社で事務を手伝っているということだった。

そして、二ヶ月付き合って、やっと二日前にキスに辿りついていた。

       *

僕は上機嫌で、その日もいつも通り谷山教授の研究の手伝いをしていた。

教授は猫背の為、実際は身長が165cmあるが160にも満たない小男という印象を受ける。

そして側頭部を残して見事にハゲあがり、耳を澄ましていないと聞き取れないような小さな声で話をする。

しかしゴルフはかなりの腕前で、しゃくとり虫のようなスイングをしながら、結果的には90前後で回って来てしまう。
…アプローチとパターがべらぼうに巧(うま)いのだ。

僕の数少ないライバルの一人だった。 

彼はゴルフの話をする時だけは、こんな大声が出るのかと思わせるほど喜々として会話に参加した。 

しかしそれ以外はいつも表情を変えず、足音は忍ばせているのではと思えるほど異様に小さかったので、立場とは裏腹に存在感は薄かった。
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