青春を取り戻せ!
「柳沢だろう?」
僕が受話器を取った。
「はい」

『あのっ 優紀さんいらっしゃいますか?』

若い男の声だった。僕は受話器を差し出した。
「優紀、君にだ」

「えっ、はい」
「もしもし、お電話代わりました」
「あっ はい」

優紀は通話口を手で押さえた。

「タツロー、お風呂できてるから、入ったら」

彼女は僕が渋々風呂場に消えるまで、睨(にら)むように見ていた。

脱衣所にかすかに彼女の声が聞こえてきた。

「お待たせしました。…はい」

僕は服を脱ぎながらも、耳は敏感に声を拾っていた。

「私、結婚することになりましたから、お付き合いは出来ません」

「はい。会社もやめます」

優紀にとって僕の存在は、はたしてプラスになってるのだろうか?そして僕らは本当の意味で男と女になれるのだろうか?

交錯する想いに脳細胞をめぐらしながら、風呂場のタイルを踏みしめた。

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