青春を取り戻せ!
「…ボンのお礼!」

「オイオイ!…お礼にぶつことはないだろ」

「それもそうね。…でも、この痛みほど感謝してるってことよ」

僕は何故かおかしさが込み上げた。

優紀と目が合った。

彼女の瞳の中の光が愉快そうに揺れている。

僕らは堰(せき)を切ったように笑い出した。

彼女のこんなに底抜けの笑顔を見るのは7年ぶりかな?と思った。 

僕は意識の奥でまだ未美のことを愛しているのでは?という根拠のない不安を彼女が抱いているのを薄々感じていたが、二人をコテンパンにやっつけた現場を目撃して、そんな不安や疑心も跡形もなく吹き飛んだだろうと思えた。

そして、そんな彼女を見ている僕も、色々なわだかまりが吹き飛ぶのを感じた。

そして何より、彼女の強い愛を ――― 生々しい女を ――― 感じた。


僕らはケースを一つづつ持つと、体の一部を触れ合いながら外に出た。

二人でボンの名を呼んだ。

ボンは鎖を一杯に張り、尚も立ち上がり、首が千切れるほどそれを引っ張った。

ケースを下に置き、ボンを撫ぜた。ボンは僕らの顔を交互にクリームのように舐めた。
僕も彼にキスをした。

「よしよし、久し振りだな。寂しかったかい。いま自由にしてやるよ」

ボンの首輪を取ってあげた。彼らの言う通り、フィルムの隠してある首輪ではなかったが、そんなことはどうでもよかった。
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