青春を取り戻せ!
ボンが近くにいないと、

「あの小犬、ヌイグルミみたいで可愛い」

と、好きなそぶりを見せたが、実際は嫌いなのが僕にはわかるし、それより、どうしてそんな嘘をつくのかがわからなかった。

だが、彼女にはそれ以上に良い所が沢山あった。

美人で知的で優しかった。それにもう一つは、変わっているところかも知れないが、僕の退屈な研究の話を大好きな映画のストーリーを聞くように楽しそうに聞いてくれることだった。


その後も僕らの交際は続き、一度、彼女の兄を紹介して貰うついでに、ゴルフをご一緒させてもらった。

彼女が意外とうまいのに感心した。

彼女の兄はいかにも青年実業家という颯爽とした雰囲気を持ち、往年のロバート・レッド・フォードを彷彿(ほうふつ)させる二枚目だった。
そして、そのレッド・フォードばりの顎の張りが意志の強さを物語っているように見えた。

しかし物腰は低く柔らかで、さすが若くして会社を起こしただけあり、僕のような温室育ちと違って荒海で生きている人のたくましさを感じた。

彼を気に入った原因はもう一つある。

それは1ストローク差で勝てた事だった。

    *

僕は偶然にも研究以外のことから新しい薬の素材を発見していた。

それはイオン交換樹脂だった。

ただの水道水をそれに通す事によって精製水にしてしまう魔法の繊維である。

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