青春を取り戻せ!
アリバイがあるのだ。

この時間には未美がまだ部屋に居て、皿を洗っていたからだ。

いざ裁判になれば、未美の証言で有罪には出来ないわけだ。

死亡推定時刻は現代の法医学ではかなりの精度で確定できるらしいが、殺害現場がうちのリビングというのは、血痕だけで判断したらしい。

つまり、殺害現場は彼らの間違った推理で、実際は、抱水クロラールで寝かせた女を、どこかで十時前後に何者かが殺し、僕が死んだように寝ていた深夜、運び込んだというのが真相だろう。

古い家屋だ、入る気になれば、誰でも簡単に入れる。
現に、裏口はあいていた。

……いらなくなった粗大ゴミを他人の庭に捨てるのとは、根本的に状況は異なる。

…まったく迷惑な話だ。

…だが何者が?何のために?

…一瞬、未美が!?ともよぎった。が、彼女が死体、または寝入っている女をひとりで運び込めるほどの力があるとは思えなかった。
死体や寝ている人は協力しない分重いのだ。

それに、僕の不利益になるような、こんな馬鹿げたことをする動機がない。

僕は彼女に惚れているし、彼女も僕を愛してくれている。
現に婚約したばかりなのだ。

……一瞬でもくだらない考えを持った自分を叱咤した。

例え真犯人は見付けられなくても、無罪が確定されなくとも、少なくとも有罪には出来ないという慢心が、僕の口を頑固に閉じさせつづけた。
< 75 / 202 >

この作品をシェア

pagetop