右隣の彼
「あのね・・・その・・名前を呼べば岸田くんの言うお願いは
 クリアするのね」

「そうです。」
だったら簡単じゃない。
でも・・・いざとなるとなんだか妙な緊張感が・・・・
だって岸田君は岸田君でそれ以外で呼んだことはない。
でも言えば終わりなら言ってやろうじゃない!
「わかったわよ!・・・し・・滋君?」
「君はいりません。それと、どもらないでくれませんか?」
そんな事言われても呼び捨てとか・・注文多くない?
名前だけなのに・・・
「し・・げ・・る?」
「間が開きすぎ」
「ええええ!だって呼び慣れてないんだもん」
ただ単に名前呼ぶだけでここまでダメだしされるなんて
悔しい・・・・
私は大きく深呼吸をすると岸田君の目をしっかり見つめた。
「滋」
これでクリア!そう思ったが・・・
「もう一回」
「え?」
「もう1回呼んで・・・」
「・・・・滋?」
「語尾上げない」
「滋」
「もう1回」
なんで何度も言わせるの?と思うのに私はなぜか岸田君に言われるがまま
名前を何度も呼んでいた。
「滋」
「一美」
やだ・・・何・・・私凄くドキドキしてる。
呼び捨てで名前を呼んだだけなのに・・・
岸田君に名前を呼ばれただけで凄くドキドキしてる・・・
「ね!もういいでしょ?これだけ呼べばもう満足ー」
「一美・・・・」
やだ・・・なによこれ
からかってるの?
岸田君は私をじっと見つめたままほんの少し目を細めまた私の名前を呼んだ。
まるで愛おしい人を呼ぶように・・
甘く・・優しく・・・そして一歩ずつ私との距離を縮める。
私はこの状況をうまくかわす事が出来す一歩ずつ後ろに下がった。

だが十月桜が私の足を止めた。
岸田君との距離がぐっと近づく。
「岸田君?もう帰ろうよ。お願い事…クリアしたんだし」
私は岸田君からすり抜けようと右足を一歩右へ出そうとしたが
左手首を掴まれた。
「岸田君?!」
慌てて岸田君の方を見ようとした時だった・・・
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