右隣の彼

ドキドキが止まらない

岸田君の家に着くと靴も脱がず、壁に押し付けられ
言葉を交わすよりも先に互いの唇が重なる。

岸田君の家に向うタクシーの中で特別な会話もなかった。
ただ店を出てから一度も手を離す事はなかった。
もちろん今こうやってキスをしている間でさえも・・・
音も部屋の灯りもつけない真っ暗な空間の中で
聞こえるのはキスの音だけだった。
とろけるような甘いキスに手を握っていない方の手の力が抜けて
持っていたバッグが力なく落ちる。
何も持たない手は行き場を探す様に岸田君の方へとのばし
岸田君のダウンジャケットの裾を掴んだ。
キスは徐々に激しくなる。
唇が離れるとすぐに私の下唇を舐め、そのまま口内へと滑りこませる。
あまりにも自然な動きに抵抗する隙も与えてくれない。
全身の力が抜けそうになる様なキスが繰り返され
正直立ってるが辛くなり両手に力が入ると唇が離れた。

「ごめん・・・がっついちゃった」
真っ暗な玄関先で岸田君の声が私の耳元で聞こえた。
岸田君はそのまま私を自分の方へ引き寄せると私の肩に顔を埋めた。
「でもめっちゃうれしくって・・・・ベッドまでの距離さえも
もったいなくって」
「うん・・・」
「電気のスイッチすら押し忘れて・・・」
「うん・・・」
言い訳している岸田くんが何だかかわいかった。
「・・・でもこんなんじゃものたりないからね」
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