右隣の彼

おばさん?!

仕事が終わり、私は早々と会社を出た。
本当は岸田君と一緒に帰りたいと思うのだけれど
内緒にしている手前、会社帰りのデートは決まって時間差で会社を出て
決まった場所で待ち合わせをすることにしている。
今日のようにお泊りの時はお泊りする方の家の最寄りの駅で待ち合わせをしてから
一緒に帰るのだ。

今日は岸田くんちに泊まることになったので夕飯の買い出しもしたかったから
電車に乗る前に買い物を済ませた。

最寄りの駅に着くと岸田君はすでに改札を出た横の壁にもたれながら
私が来るのを待っていてくれて
私と目があった途端、岸田君の顔が瞬時に変わった。
それは決して会社では見せない私にだけ見せる笑顔だった。
子犬のように尻尾を振ってるって言い方は岸田君には失礼かもしれないが
あんな笑顔を独り占めできる私は幸せ者だ。
なんでもっとこの気持ちに早く気づかなかったのだろうと何度思った事か・・・
改札を出ると岸田君は何も言わず私の買い物袋を持ってくれた。
「今日は何作ってくれるの?」
買い物袋の中身がこれから作る食材だと分かった岸田君はその中身を覗き込むと私に
視線を移した。
「ん?今日は~パスタだよ」
パスタって言っただけで岸田君の顔がくしゃくしゃの笑顔になった。
「本当?うれしいな~一美の作るパスタ~きっとうまいんだろうな~」
「いやいや、岸田君のお兄さんに比べたら私なんてとてもとても」
さぞうまいんだろうな~とでも言いそうな過大評価に私は苦笑いするしかなかった。
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