右隣の彼
駅から岸田君の家までは徒歩10分ぐらいなのだが
会話が途切れるようなことはなかった。
と言っても残念ながら会話の7割が仕事の話なんだけどね。
だから徒歩10分もあっという間で気が付けば
マンションはもう目の前だったのだが、急に岸田君が足を止めた。
「どうしたの?」
「・・・・・葵(あおい)?!」
岸田君の視線の先を目で追うとマンション前に女の人が立っていた。
…誰?そう思った時だった。
「あ~~しげ兄!!」
女の人が私たちの方に駆け寄ってきた。
暗くて最初はわからなかったが徐々に彼女の顔がはっきりと見えると
私はそのかわいらしさに固まった。
ショートボブに目はパッチリ二重にプルプルの唇。
スタイル抜群でモデルじゃないかって思ってしまうほどだった。
その女の人は私なんか眼中にないとでもいうように岸田君だけを見ていた。
「お前、こんなとこで何してんだよ~」
「しげ兄に会いに来たって言ったら怒る?」
岸田君のぶっきらぼうな言い方とは反対に葵という女の子は
かわいらしい声で答えた。
「いきなりはないだろう。それにここには来るなっていつも言ってるよな。
 用がないなら帰れ」
「・・・・用はあるもん」
彼女は頬を膨らませながらちらりと私の方を見た。
なんだか私が邪魔だという表情に彼女が岸田君のことを好きだとすぐにわかった。
岸田君はというと思いっきりため息をつき私をちらりと見るとまた葵さんに視線を戻した。
「お前が口尖らせてしゃべるときは大概・・・・嘘。」
嘘と言われた葵さんは肩をびくっとさせた。
・・・・・ビンゴなんだ。
でも笑えない。だって彼女の目は岸田君に恋をしてる目だったから。
< 75 / 118 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop