右隣の彼
「ふ~~ん仕事なんだ。だったらさ・・・僕もご同行させていただきます」
「はい?」
「だって仕事なんですよね。僕、一応先輩の補佐をしてるので同行するのは何ら
問題はないとおもうんですけどね」
拒否権はないよとでも言いそうなほどの鋭い目で私を見つめる岸田君に
私はなんだか怖くて後ずさりしていた。
「で・・・でも今回は私が課長に頼まれたことであって・・・」
同行してくれるなら同行してほしいよ。
だけどそうなると顔に出る私の事だ。
岸田君が彼氏だという事が颯太さんにばれる。
ばれちゃうって事は同時に颯太さんは葵さんの好きな人も知ってしまう。
いろいろとややこしいことになりかねない。
これ以上大事にならずに済ますには
今日颯太さんと岸田君を会わせず自分で何とかするしかない。
だから岸田君には遠慮してもらおうと言おうとしたのだが、岸田君が詰め寄ってくる
それに合わせるように後ずさりしているうちに
気が付けば後ろは窓で逃げ場がなくなっていた。
「岸田君?」
岸田君の顔は不機嫌全開だった。そして逃げ場のない私との距離はほとんどなくなっていたかと
思うといきなり私の顔の真横に岸田君が手をついた。
これが乙女の憧れの壁ドンってやつだとすぐにわかったが
岸田君の顔が完全に怒っているのでずっきゅん系のドキドキとはかけ離れた
意味が全く別のドキドキだった。
「俺がいちゃまずいことでもあるの?」
完全に僕からプライベートの俺に変わっている。
でも一緒にはいけない。
私は心を鬼にして岸田君をまっすぐに見つめた。
「まずいことなんてない。今回はすべて課長から頼まれたこと。
 不安そうな顔をしてしまってしまったのは申し訳ないと思ってる。
だけどこれだけは言っておく。夏さんはあんなこと言ってたけど
私には岸田君しか見えてないから。」
ごめん、好きだから迷惑かけたくない私の気持ちをわかってほしいと
心の中で呟いた。
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