二重螺旋の夏の夜
『谷村さん』が『雅基』――『くん』付けで呼ぼうとしたら、呼び捨てのほうがいいと本人に言われたのだ――になり、雅基もわたしのことを下の名前で呼ぶようになった。

そして月に2、3回の頻度で会っては食事をしたり映画を見に行ったり、買い物をしたりもした。

雅基は快活という言葉が本当によく当てはまるような性格で、いつでもわたしを楽しい方へ、笑っていられる方へ導いてくれた。

手もつないだ。

唇も重ねた。

優しく抱きしめ合ったりもした。

わたしの顔はちょうど雅基の胸に埋もれる形になり、心臓の鼓動を聞いては安心し、いつもふふっと笑ってしまうのだった。

誕生日や記念日には笑いながら一緒に過ごしたし、雅基のおかげでクリスマスは幸せな記憶に塗り替えられた。

楽しかった、本当に。



あの頃に戻れたら。

でも、仮にそうすることができたとしても、結局その先に今のこの状況が待っているのなら、戻っても堂々巡りになるだけだ。

どこかで選択を間違えたわけでも、タイミングを間違えたわけでもない。

問題があったわけでも、努力が足りなかったわけでもない。

きっと何回繰り返しても、同じようにここに行き着くのだろう。

仕方のないことで、途方もなくて。

まぶしい光を感じ反射的に目を細めると、バスのライトがゆっくりとこちらに近づいてきていた。

荷物を再び持って、深く息を吐く。

バスが止まってドアが開き、わたしは白い明かりが煌々とついた車内に乗り込んだ。

もう振り返らない。
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