二重螺旋の夏の夜
「あの」

しばらくしてからわたしが鼻声で話し出すと、早見さんは手を止めて今度は背中をさすってくれた。

「うん、ゆっくりでいいから」

「…はい。あの、わたし、つまらないって言われちゃって…」

本当は気付き始めていた。

雅基は多分、わたしのことが好きなわけではないこと。

自分の考えは決して曲げない人だから、言うことを聞いてくれる、意のままに操れるということが、雅基を満足させているのだということ。

それからわたしも、誰にも必要とされない自分が悲しくて寂しくて、無条件でずっと隣にいてくれる存在が欲しかったのだということ。

失ってしまうのを恐れて、我慢して必死にしがみついているのだということ。

好きかどうかよりも、安心したくてそばにいるのだということ。

――明るい光に包まれたくて、誰かに寄り添って欲しくて、1人どこかで泣きそうでいるのはわたし自身だ。



うまくまとめられていないうえにつっかえながらわたしが話すのを、終始黙って聞いたあとで、早見さんは静かに口を開いた。

「俺はね、その彼氏さんほど一緒にいるわけじゃないけど、神崎ちゃんが素敵な人だってことはわかるよ」

「…そんなこと、ないです」

「だからもっと自分のいいところに気付いて欲しい。人の話を真摯に聞いてくれるところとか、何でも丁寧にやってくれるところとか、お世辞とか社交辞令が苦手で、本当にそう思ってるっていうことしか口には出さないところとか」

「確かにお世辞は、うまくないですけど」
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