偽りの香りで

***


玄関で靴を脱ぐと、彼が後ろから私を抱きしめてうなじに口付けた。

そこから私の身体を反転させて抱えあげると、寝室へ移動して私をベッドに座らせる。


上目遣いに彼を見ると、手首をつかまれ、そのままふたりでもつれるようにベッドに倒れた。


「このまま、その香りごと抱かせて」

私の上に身体を重ねた彼の声が掠れる。

彼の言葉に、胸が狭く締め付けられる。

彼がこんなことを言うのは、私が今日“彼女”と同じ香りを纏っているからだ。

切ない目で彼を見上げる。

けれど、返事をする間も与えられないままに彼に唇を塞がれた。

慣れた手つきで私の服を剥がした彼が、指で私の素肌を撫でながら唇に、胸に、お腹に、内腿にと唇を這わせる。

彼から注がれるキスに心も身体もどろどろに溶けて熱くなる。

それでも頭の隅に残る理性は、私に“彼女”のことを忘れさせなかった。


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