偽りの香りで
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玄関で靴を脱ぐと、彼が後ろから私を抱きしめてうなじに口付けた。
そこから私の身体を反転させて抱えあげると、寝室へ移動して私をベッドに座らせる。
上目遣いに彼を見ると、手首をつかまれ、そのままふたりでもつれるようにベッドに倒れた。
「このまま、その香りごと抱かせて」
私の上に身体を重ねた彼の声が掠れる。
彼の言葉に、胸が狭く締め付けられる。
彼がこんなことを言うのは、私が今日“彼女”と同じ香りを纏っているからだ。
切ない目で彼を見上げる。
けれど、返事をする間も与えられないままに彼に唇を塞がれた。
慣れた手つきで私の服を剥がした彼が、指で私の素肌を撫でながら唇に、胸に、お腹に、内腿にと唇を這わせる。
彼から注がれるキスに心も身体もどろどろに溶けて熱くなる。
それでも頭の隅に残る理性は、私に“彼女”のことを忘れさせなかった。