偽りの香りで
***
目を覚ますと、彼はまだ私の隣で眠っていた。
私はベッドに肩肘をついて上半身を起こすと、彼の寝顔を見つめながらそっと髪を撫でた。
少しは、“彼女”を失った彼のためになれただろうか。
「好き……」
だけど、伝えるのはこれが最初で最後。
彼の髪から手を離すと、彼を起こさないように静かにベッドを移動する。
彼が寝ている間に消えてしまおう。
床に散らばった服に視線を走らせたとき、不意に後ろから腰を引き寄せられた。
驚いて思わず悲鳴をあげると、いつの間にか起きていた彼が背中から私を抱きしめてベッドの中に引き戻す。
「捨て台詞だけ残して勝手に帰るなよ」
「何の話?私はもう――」
まさか、さっきの一方的な告白を聞かれていたんだろうか。
彼を押し退けて逃げ出そうとすると、彼が私のうなじにそっと唇を押し当てた。
柔らかなその感触に、身体が痺れて動けなくなる。