つなぐ理由
「じゃあお疲れ。気をつけて帰って」
そう言った上杉先輩はいつものように何を考えているのか読み取れない無表情のままだった。だからなんで唐突にこんなことを言い出すのかわからなかった。
ただひとつわかるのは、先輩に見放されて今すごくかなしいということだけだ。
---------やっぱりわたしなんて、手の掛かる面倒な後輩だとしか思っていなかったんだ。
先輩と手を繋げることに浮かれる反面、もしかしたらそうかな、と思っていた。いつか「面倒見きれない」といわれてしまうんじゃないかと、本当はずっとびくびくしていた。
先輩にこんなにはっきり拒絶されて、もうこれ以上嫌われる心配をしなくてすむな、よかったなと思う。でも。もう先輩がわたしと手を繋いでくれることはないんだと思うとせつなくて。
このひとも、このひとの手もわたしのものじゃないとわかっているのにつらくて。
泣きたくなったけれど、お腹にぐっと力をいれて堪えた。
「上杉先輩っ」
背中を向けて去っていこうとする先輩を呼び止めて、その場で勢いよく頭を下げる。
「送ってくださって、いつもありがとうございました!」
感謝の気持ちと、申し訳ない気持ちと、切ない気持ちもめいいっぱい詰め込んで先輩にお礼を伝える。
「いつも心配してもらって、手まで繋いでもらって……わたし今までろくに女の子扱いしてもらえたことがなかったから、先輩から親切にしてもらってすごくうれしかったです!」
ありがとうございました、とさらに深く頭を下げると近寄ってきた上杉先輩の靴先が視界に映った。
「なんだ。戸田さん、顔赤かっただけでやっぱ酔ってなかったんだ」
冷静な指摘に恥ずかしくなって顔を上げられなくなる。
「すみま……」
「謝らなくていいし、お礼なんて言わなくていい。俺がしてたのは親切じゃないし。戸田さんのこと、大事っていうか、丁重に扱っていたつもりだった」
言っている意味がよくわからなくて、顔をおそるおそるあげながら尋ねてみる。
「丁重……?ってわたしが4年ぶりにうちの課に来た新人だからですか?」
こつん、と頭を小突かれた。
「全く、戸田さんは。……男が女の子のこと、壊れ物みたいに扱う理由なんて決まってるだろ」
「……よく、わかりません……」
すこしだけイラついたような顔で、「戸田さんって天然なのか計算なのかときどきほんとに分からなくなる」と
文句のように呟く。
「戸田さんってさ、高校は共学だった?」
うなずくと、職場では滅多に自分のことを話さない無口な先輩らしくなく、上杉先輩は自分の身の上話をはじめた。