絶対に好きじゃナイ!

「あ、あの……社長……!」

「いいから、ちょっと大人しくしてろ」


ぴったりとくっついたままでしゃべるから、社長の声がダイレクトに頭の中で響く。

なぜか肌がぞくぞくと泡立って、わたしは少しだけ震えた。


ぎゅっと抱き寄せられて、このままじゃわたしの心臓の音も聞こえちゃうんじゃないかと思うくらい。



ダメ、余計なこと考えちゃ!

これは満員電車だから仕方ないことで、全然ふつーのことなんだから!
だからわたしの心臓、そんなにドキドキ暴れないで!


わたしは視線を鼻先のネクタイに集中させて、ひたすらその模様を辿っていた。


「ちっ、もう少し端に寄れたらいいんだけどな……」


頭の上から降ってくる声は聞こえないふりをする。

端に寄れたらどうしたいのか、普段のエレベーターに乗った社長を思えば簡単に想像はつくけど。


だって、今のわたしはちょっと余裕ない。
いくら不可抗力でも、こんなに長い間近くに社長を感じているのははじめてなんだもん……
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