絶対に好きじゃナイ!

「おい、梨子」

「は、はい!」


低い社長の声が耳元で響くから、思わず顔を上げた。


あ、ちょっと……

ヤバい、なんでか昨日のキスのこと思い出しちゃった。


「なんだ、顔赤いな。大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」

「ちょっとでも変だと思ったらすぐに言えよ。我慢すんな」


というか、他の男に触らせるなんて俺が我慢ならんーー



ひとりごとみたいに呟いた社長の声は、しっかりとわたしの耳にも届いたけど。


その意味は、なるべく考えないようにする。

勤務中なのに、社長がわたしのことを"椎名"ではなく"梨子"と呼んだ、その意味も。


そうしてわたしは社長にぴったりと抱き寄せられたまま、暴れる心臓をなんとか抑え込み、安達医院の最寄り駅までを耐えた。

心臓が爆発しなかったのは、きっと奇跡だと半ば本気で感謝した。
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