YUMERI〜女のコにはユメとキボウがあるのだ!〜
進学希望ですか。
就職希望ですか。
白い紙が問いかけてくる。
希望梨はシャーペンをカチカチやりながら考えこんだ。
進学するにしたって、大学、短大、専門学校などなど。
就職するなら無限大。…いや、今の時代高卒では条件が厳しいかな。
今日中に提出しなければならないので、昼休みに進路のアンケートに取り組んでいた。
りおと涼子はもうとっくに提出したとかで、昨日のテレビについて雑談している。
家業継ぎます!…とか?人雇うお金ないしな。進学したとしても今のように手伝いは必要だろう。
本屋稼業に専念すべきか…。
でも正社員の待遇は期待出来ないし。
そしたらいつまでもあの家に縛られるし!
やっぱり独立する事考えなくちゃダメだ。
希望梨は進学希望にチェックを入れ、進学希望先は空欄にした。
大学か短大に行って、勉強しながら自分が就きたい仕事を探せばいい。
大学で資格取る事だって出来るし!
安堵して紙から顔を上げた時、親友達の笑い声がピタッと止んでいる事に気がついた。
「何…?」
そして、長身で見覚えがあるようなないような男子が目の前に立っていた。
「あの、えと…。俺陸上部の伊坂なんだけど…」
あぁ、稔の友達かぁ。
「…今度の土曜予定ある?」
「…へ?」
何を言いたいのか分かりかねて間抜けな声を出した。
「『赤毛のアン』好きなんだよね?」
伊坂の台詞にりおが吹き出した。彼は希望梨がアンに対して複雑な感情を持つことを知らない。
「えっと、あのさ、映画の3部作のリバイバル上映があるんだ」
伊坂はポケットからチケットを取り出した。
『赤毛のアン』出版100周年特別企画と書いてあり、近所のシネコンの名前が記されていた。
「知り合いからチケットもらって…。桜井さんが『赤毛のアン』好きだって聞いた事あるから」
伊坂は頬を紅潮させていた。
「……」
希望梨は無言でチケットを見ていた。これってデートのお誘い?
「嫌ならあの、構わ…」
「ううん、行く。何時からの上映?」
口が勝手に話す感じだった。
進学する事を決めたせいか、すっきりしてもいた。
昼休みの終わりには、土曜日に映画を観に行く段取りが決まっていた。
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