あの夏のキミへ
「それは…どういう意味なの?」

頭の中の混乱がおさまった今なら聞くことができた。

「くれっていっても、俺の行きたいところに付き合ってもらうだけだよ」

なぜか悲しげに口角を上げている。

彼には裏がありそうだと思った。

なにか、大きなものを隠しているのではないかって。

あくまでもわたしの想像なんだけど、普通見ず知らずの人に行きたいところに付き合ってとか言わない。

それに…そんな悲しげな表情を見ると、何も無さそうには見えなかった。

どこに行くの?って聞こうと口を開きかけると、彼は続けてこう言った。

「死ぬことはいつでもできる。でも、今は今しかないんだから。」

その言葉もあまり意味がわからなかった。
でも、わたしの自殺を引き止めようとしているのが感じられた。

そんなに付き合ってほしいのなら断らない。

だけど、死ぬことを諦めたわけではない。

帰ってきたからまたここに来て、自殺すればいいのだから。

なんにもなかったわたしの人生の、最後の思い出作りってやつ?

ただ、そんな感覚だった。
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