*魔法の香り*



『麻衣、これはとっておきの魔法なの…――』





 あたしは

 由希の言葉を思い出して

 魔法の小瓶を取り出した。





「……」





 人谷先輩に連れて来てもらった

 海の見えるホテルのラウンジの

 高そうなレストラン



 緊張して

 レストルームに駆け込んで

 今の自分をチェックしてへこむ。



 頑張ってオシャレしたつもりだけど

 先輩に連れて来てもらったお店に

 場違いな気がして……





『一晩だけ、大好きな人の目に魅力的な女の子に見えるようになるの』





 藁にもすがる気持ちで

 由希にもらった魔法の香水を

 自分に降りかける。





『――…まずは手首につけた後、首筋とヒザ裏に』






 どうか先輩の目に

 魅力的な女の子に映りますように。





『香りが自分を包むたび、少しずつ、少しずつ…――』





 ドキドキする胸を抑えて

 レストルームの鏡の自分を確認する。





「……」





 少しだけ

 違う自分になれたような

 気がしてきた。





『よし、ガンバレ麻衣!!』





 由希の言葉に頷いて

 あたしは先輩の待つ

 レストランの前のテラスへ向った。



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