愛が冷めないマグカップ



(小林部長…。どうしてわたしにキスしたんですか…?…とか聞けないよね絶対…)




知らなかったことにしようか。忘れたほうがいいのだろうか。

ぬるいミネラルウォーターを口に含みながら、頭がすっきりとしてくると、さっきのキスが現実味を帯びてくる。



「あの…部長、宴会は…?」



あゆみが言うと、「ああ」と小林部長は言った。




「つまんないから、抜け出してきた。石橋エリカの浴衣が乱れ始めてたから、ちょっと惜しかったけどね」




「あ…そ…そうなんですか…」




エリカ様の浴衣が乱れたら、若手男性社員はたまらないだろうなとあゆみは思った。その貴重なチャンスを逃してまで、小林部長はいまここにいる。


あゆみは複雑な気持ちでいっぱいだった。エリカ様のことを、小林部長はどう思っているのだろう。



さっきのキスは、どういう意味があるんだろう。



(小林部長も酔ってるし、ちょっとした気の迷いって可能性もかなりあるよね…)


気にするべきではないのかもしれないとあゆみは思った。

自分にとっては正真正銘初めてのキスでも、小林部長にとっては単なる遊びか悪ふざけの一環でしかないかもしれないのだから。




< 110 / 166 >

この作品をシェア

pagetop