愛が冷めないマグカップ



「豆柴、この後どうしようか?」




「えっ?」




(どうしようかって、どういうこと?)




小林部長はあゆみの手から、飲んでいたミネラルウォーターを奪い取ると、ごくごくごくとそれを飲み干した。




(か…か…間接キス…。なんで普通にそんなことできるの?!…て言うか、いま普通にキスされたんだった…。この人、ほんとにおかしいよ…)




「だから、宴会場に戻るか?ってこと。ちなみに俺は、もうめんどくさいから戻りたくない」




(そんなこと聞かれても…)




「迷ってんのか。ほんとに優柔不断だな。それなら俺が、豆柴くんに今から選択肢をふたつやろう。そのどちらかを選ぶんだ、いいな?」




「えっ…あ、はい」




「よし。では、ひとつ目の選択肢だ。今から古い寺に肝試しに行く。幽霊が出るっていう噂が本当か試しに行く」




(それ…絶対イヤなんですけど…)




「あの…ふたつ目は…?…わたし、幽霊ダメなんです…」




あゆみが言うと、小林部長はニヤリと笑った。嫌だと言われるのがわかっていたという感じだなとあゆみは思った。




「ふたつ目は、花火を買って花火をする。さっき、売店で売ってたんだ」




小林部長は悪戯っ子のような表情を浮かべた。笑っても、怒っても、綺麗な顔は綺麗なままだ。




「宴会場に戻る、っていう選択肢はないってことですか」




「ああ、ないよ。俺、嫌だって言ったろ?」




小林部長が浴衣の胸元から煙草を取り出して火を付ける。その仕草がやけに色っぽくてあゆみは思わずどきりとした。





「じゃあわたし、花火がいいです」





「ふうん、即答だな。チャレンジ精神てもんがないのかお前は」






「幽霊にチャレンジ精神て、意味わからないですよ」









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