愛が冷めないマグカップ
小林部長がとつぜん花火をすると言い出したことにももちろん驚いたけれど、あゆみにはもっと気になることがある。思い切って聞いてみようとあゆみは思った。
「あの、小林部長」
「なんだよ」
煙草の煙をふうっと吐き出す横顔が、薄暗いロビーからの明かりで照らされている。やっぱり綺麗なひとだとあゆみは思った。
「…あの…いいんですか?」
「なにが?」
「わたしなんかと、花火なんかしてていいんですか。せっかくの宴会なのに…。それに…」
あゆみはモゴモゴと黙り込んだ。言いにくそうに下を向いて俯くあゆみに、小林部長は怪訝な顔をした。
「なんだよ、言えよ」
「あの、…石橋さんは、いいんですか」
「いいって?だから何が?」
「だからですね…、あの…、小林部長と石橋さんは…その…」
「ああ?」
「あの…お二人の関係って…」
やっぱり言うんじゃなかったとあゆみは思った。こんなこと、聞いてなんになるの。
小林部長はふ、と笑った。
「付き合ってもないし、ヤったこともないよ。
そりゃあな、一回だけお願いできるならどっちがいいかって聞かれたら、間違いなく、豆柴より石橋エリカだけどな」
小林部長はけらけらと笑っている。
「う…っ。なんかすごい傷つきました、いま」
「おいおい、男なら百人中百人がそう言うだろ」
小林部長は悪びれずに答える。あゆみが聞きたかったことは正確に言えばそういうことではなかったのだけれど。
だけど、ほんの少し、ほっとした。
「好きだとか、付き合いたいって思うのと、目の保養とか、一発お願いしたいとか、そういうのとは違うんだよ。わかるかな?まぁわからんだろうな、豆柴くんには」