愛が冷めないマグカップ



ガレージの近くの砂利が敷き詰められた広場に着いた。だれもいない暗闇の中にぽつりと街灯があり、涼しい夜風が吹いている。


色とりどりの花火を袋から取り出して、バケツに水を張る。



小林部長は「おおっ、こんなのもあるのか!すげえ」なんていいながら、花火を物色している。あゆみはなんとなく幸せな気持ちでそれを眺めた。




「おれ、最初はこれにするわ。花火といえば、これだろ?」




小林部長が自信満々の顔つきで取り出したのは、線香花火だった。

「だめですよ」とあゆみは言った。




「なんでだよ。いちばん有名じゃないか」



小林部長はいかにも不服そうにあゆみを見ている。




「だめです。線香花火は、最後にしましょう」



「だからなんでだよ」



「最後にふさわしいからです。線香花火は、そういうものです」



確かに線香花火を最後にしなければならないというルールはないけれど、あゆみはやっぱりそうしたかった。小林部長の記念すべき初めての花火を、素敵な思い出にしたかったから。




「そうなのか。そういうもんなのか」




小林部長は渋々といった感じで諦めて他の花火を探し始めた。




小林部長が花火を持ち、あゆみがそれに火を付ける。小林部長の花火から、あゆみが火をもらう。



ねずみ花火、ロケット花火。暗闇にパチパチと火花が踊り、そのたびに小林部長は「おお!」とか、「うわ!」と歓声をあげた。

あゆみはとても幸せだった。会話に困らないように、どんどん花火に火を付けた。光と煙とパチパチという音が懐かしい。小林部長とふたりきりで花火をしていることが、とても幸せなことに思えた。






< 114 / 166 >

この作品をシェア

pagetop