愛が冷めないマグカップ









浪岡さんが倒れたと連絡があったのは、社員旅行が終わって一週間後、あゆみが小林部長のコーヒーのおかわりをいれていたところだった。




「大変です!…社長!おばあちゃ…浪岡さんが…!」




事務所に浪岡さんの娘さんから電話があってすぐ、あゆみはコーヒーをいれるのをやめた。社長室の扉をバンと勢いよく開ける。






「周さん…!浪岡さんが!」




「浪岡さんが…なんだって?」





周さんと小林部長は同時に顔をあげ、目を見開いた。





「浪岡さんが…倒れたって…。今朝、ご自宅の台所で調理中に、突然倒れて病院に運ばれたそうです…!」





「浪岡さんが?」




周さんが顔をしかめる。


小林部長は「そうか」と言ったきり、ただ黙ってソファに寝転んだ。





(ひ…ひどい…。心配じゃないわけ?!)




「あの、どうしましょう…周さん!」





涙を流しながら訴えるあゆみに、周さんは「大丈夫だ。今日、仕事が終わったらぼくが見舞いに行ってくるよ」と微笑んで見せた。無理に微笑んでいるとすぐにわかる。心配だというのが顔に現れていた。娘さんの話では、倒れるのは初めてではないらしい。





「小林部長!」





あゆみはソファに寝転んだままの小林部長に向かって声を荒げた。





「…心配じゃないんですか?!」





「浪岡さんも、歳だからな。仕方ないだろう。俺は行かない」





あゆみは小林部長をぎっと睨みつけた。





(…最低…!!)









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