愛が冷めないマグカップ
「なんだ、豆柴。言いたいことがあるならはっきり言え」
小林部長はふんと鼻を鳴らした。
「…言いたいこと?ありますよ、大ありですよっ。歳だから仕方ないなんて、ひどいです!そんなこと言って、浪岡さんがこのまま死んじゃったらどうするんですか?!」
あゆみは悲しかった。小林部長がそんなに冷たい人だったなんて。
ぶっきらぼうなところもあるけど、優しい人だと思っていたのに。
「あのな、浪岡さんだぞ?あのばあさんなら、殺したって死なないよ。心配ない。すぐにけろっとして帰って来るさ」
「そんな言い方…」
「そんなことより、俺のコーヒーまだ?」
いかにも不機嫌そうな顔で、小林部長はあゆみに言った。
(…そんなこと…?)
周さんが立ち上がる。
「大丈夫。浪岡さんは強いよ」
一言ぽつりと言って、社長室を出て行く周さん。加工場におりて行くらしい。
「ほら、周さんも大丈夫だって言ってるだろ。早くコーヒー」
小林部長はソファーに寝転んだままだ。あゆみはついに我慢ができなくなった。
「いい加減にして下さい!そんなにコーヒーが飲みたいなら、自分で入れれば良いでしょう?浪岡さんはいつも、小林部長がそうやってソファーでゴロゴロしているときだって、事務所や工場や階段やトイレをお掃除したり、朝一番に来て、給湯室のポットのお湯を補充したり、職人さんたちにお茶をいれたり、みんながやらないことまでやってくれているんです!わたしは、浪岡さんの仕事で何か出来ることがないか探してきますから!」
あゆみはぷるぷると肩を震わせながら言った。上司にこんなことを言って、いいはずがない。もしかするとクビになるかもしれない。だけどどうしても我慢できなかった。