愛が冷めないマグカップ
「うぬぼれるな!」
小林部長はむくっとソファーから起き上がり、冷たい視線をあゆみに向けた。
「お前、なんか勘違いしてるんじゃないか?…浪岡さんの仕事を手伝う?自分の仕事もまだ完璧にこなせない奴が、よくそんなことが言えるな。お前みたいな半人前に、なにができる」
あゆみは下を向いて黙り込んだ。
確かに自分は半人前だし、浪岡さんが完璧なのだって知っている。だけどただ、浪岡さんのために何かしたかった。
「浪岡さんが、わざと給料の出ない仕事をするのは、誰もそれをしないからだ。職務内容にない仕事、就業時間外の雑用、自分の休憩時間を削って掃除をしたり、無駄に早く出勤したり、毎日職人さんにお茶をいれるなんて誰がする?誰もしない。お前だってそうだろ?ちゃんとした給料をもらって、きっちり休憩時間をとって、定時で帰って土日は休みたい。そう思ってうちに来たんだろ?違うか?お前に浪岡さんを手伝う資格なんてないんだよ」
あゆみはなにひとつ言い返せなかった。全部本当のことだからだ。
ここに来たのは会社の為になりたかったからじゃない。定時で帰って土日は休んで、残業代とボーナスをきちんともらいたかったから。
「俺はお前に、浪岡さんになることを求めてるわけじゃない。わかったら、さっさとコーヒーいれて来い。俺は豆柴くんのコーヒーが飲みたいんだ」