愛が冷めないマグカップ
「そうか…、心配だよな。浪岡さん、いつも元気すぎるくらい元気だったから、尚更だよな」
「…そうなんです。浪岡さんが倒れるなんて、なんだか考えられなくてびっくりしてしまって…」
「そうだよな。見た目は元気だけど、なんてったって八十歳だもんな。今まであんな風に働いてたのが普通じゃなかったといえばそれまでだけど」
笹原主任は心配そうに呟いた。あゆみもそうですよねと頷いた。少し気持ちが落ち着いてきたような気がする。
「あのさ、もしよければ、明日、一緒に浪岡さんのお見舞いに行かないか?」
「えっ?笹原主任、浪岡さんの病院知ってるんですか」
「ああ。娘さんに連絡して聞いたんだ。今日はちょっと都合が悪いから、明日、行こうと思ってた」
「行きます!わたし、浪岡さんに会いたくて…」
笹原主任は「じゃあ、約束な」と言って人差し指を立てる。「あの人には、内緒な」
あの人は、きっと小林部長のことだろう。
(小林部長はわたしに興味なんてないんだから、内緒にする必要なんてないのに…)
ドリップし終わったコーヒーを片手にあゆみが給湯室を出ようとすると、またしても笹原主任の後ろから、社長室にいるはずの『あの人』が不機嫌そうな顔を覗かせた。
(…小林部長…)