愛が冷めないマグカップ





あゆみはさっそく仕事にとりかかった。ファイルから図面をピックアップして、急ピッチで材料発注と生産ラインの準備をする。

材料が来なければ生産は始まらない。材料が到着しても生産ラインの準備が整っていなければ仕事は進められない。あゆみの手配がはやいか遅いかで、納期に差が出てしまう。時間のロスをどれだけ少なくできるかが勝負だ。


小林部長の声にはかなり力がこもっていた。きっと大きな得意先に違いない。これはライバル会社との因縁の勝負なのだ。



パソコンに図面からデータを入力する。データと注文数から必要な材料のサイズを割り出した。今の時間ならまだ当日中に材料が手配できるかもしれない。



(今日中に材料が届くとしても…この機械とこのラインは違う品物の生産中だ…。どうにかならないかな…)




同じ生産ラインで同時に違う品物を作ることは不可能だ。なんとかして割り込ませてもらうしかない。


各得意先には担当の営業マンがいる。各営業マンはそれぞれ違う品物の納期を抱えていて、いつもそれぞれの納期を守らせることに必死だ。加工の納期管理は生産管理事務の役割ではあるけれど、約束の納期に遅れたときに得意先からお叱りを受けるのは、担当の営業マンと営業事務の人たちだ。加工する職人さんたちと営業の間をうまくやりくりして、納期を調整するのが生産管理の仕事でもある。



(ああ、浪岡さんもいないし、どうしよう…)



生産管理のボスである浪岡さんがいなければ、こんな無理な割り込みが通るとは思えない。あゆみは図面を手に頭を抱えた。








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