愛が冷めないマグカップ
『段取りは、任せたぞ』
頭の中で、小林部長の台詞が何度もリプレイされている。
こんな半人前の自分に、こんな大切な仕事の段取りを任せてくれたのだ。小林部長の期待に答えたい。自分だって、この会社の一員だ。少しでも、小林部長の役に立ちたい。
(…やるしかない!)
あゆみは図面と注文書を手に立ち上がった。社長室を出て、事務所へと向かう。この品物を作るために必要な生産ラインで現在加工中の品物は、笹原主任の担当だ。営業部と交渉しなければ、加工は進められない。
「笹原主任!あの…!」
笹原主任は、えっと言って振り向いた。あゆみは言った。
「いまC3ラインで加工中の品物、ストップしていただけないでしょうか…?」
笹原主任は目を見開いた。
「何バカなこと言ってるのよ、あなた」
隣から口を挟んだのは石橋エリカだ。
「納期が迫ってるのよ。止めるなんて簡単に言わないで!誰が謝ると思ってるのよ!」
笹原主任も困ったように唸っている。
「せっかく順調に生産が進んでいるんだ。ストップはできないよ」
当たり前のことだ。どの得意先だって大切なお客様なのだ。こちらの都合で納期を変更してもらうのは失礼だ。あゆみだってそれくらい理解している。
(でも…)